人形遊び

 時が止まった部屋、と言うのはこういう部屋のことを指すのだろう。
 パステルカラーで彩られた室内はいつも甘い花の匂いに満ちていて、レースカーテン越しの光は暖かく、淹れたての紅茶の湯気がゆらりと立ち上っている。アンティークのレコードプレイヤーからは名曲が流れていて、目の見えない妹の耳を楽しませてくれていた。実に平和で穏やかな時間。永遠に続いたとしても構わない、幸せな時間。それを台無しにするノックが聞こえるまで、俺はずっと他愛のない話を妹に聞かせていた。
「ルルーシュ」
 兄妹の時間に水を差したのは俺の騎士だ。返事も待たずに入ってきたスザクを冷たく見遣れば、スザクは俺の前に跪き頭を垂れた。
「首尾は? お前のことだから、万全だとは思うが」
「はい。ご命令通り、ブリタニア人を皆殺しにしました」
「ふ……ははははっ! 本当にお前はよく出来た狗だ。褒美をやろう、そこに掛けるといい」
「いえ……椅子が汚れますので、自分はこれで」
「逆らうのか? この俺に。奴隷に拒否権を与えたつもりはないぞ、スザク」
「……」
 左目に指を当て、彼を縛る悪魔の力を見せつける。奴隷になれと俺に命じられたスザクはそれに逆らうことが出来ない。緑の目のふちを赤く明滅させたスザクは、すぐさまイエスと答えて椅子に座った。優しいナナリーは奴隷が隣に座ったところで嫌な顔一つしない。本当に優しい、よく出来た妹だ。
 全身を返り血で汚したまま、スザクは茫洋とした目を俺に向けている。ギアスが発動している証拠でもあった。俺に意志を刈り取られて操り人形と化したスザクは、一日の大半をこの表情で過ごしている。だがそうでもしないとスザクはすぐさま俺の元を離れてしまうだろう。繋ぎ止めておくにはこうするしかなかったのだ。
「なあ、今日一番凄惨な死に方をしたのは誰だった? 薄汚いブリタニア人の死に様を俺とナナリーに教えてくれ、スザク」
 ティーカップに注いだ紅茶をコトリと置いて、俺は愉悦を抑えきれずくつくつと笑った。ブリタニア人など全員死ねばいい。どれだけ苦しもうが、死から逃れようと藻掻き足掻こうが、絶対に生きることを許してやるものか。
「ナナリーも聞きたいだろう? お前を傷つけた連中の悲惨な末路を」
 ナナリーは笑っている。唇を綻ばせ、愛らしい笑みを浮かべている。彼女が表情を崩すことは決してない。その白い頬を優しく撫でれば、ひんやりとした冷たい温度が手のひらに伝わってきた。
「今日の、一番は――」
 相変わらず焦点の合わない目が命じた通りに語り始める。
 俺は二人のかたちをした人形を前に、テーブルを花瓶に挿した薔薇を震える手で握り潰した。
 

powered by 小説執筆ツール「notes」

53 回読まれています