バラエティー番組で露出が増えた自衛隊 迫力ある映像、喜ぶタレント…そこに危うさが潜んでいないか

2023年11月19日 17時00分
 最近、自衛隊を取り上げるバラエティー番組が目立つ。中にはミサイルを撃つ想定の訓練や、戦闘機にタレントを乗せる演出も。テレビ局は迫力ある映像がとれ、隊員募集に悩む自衛隊もPRできるとなれば「ウィンウィン」かもしれないが、扱うのは武器だ。世界で戦争が続く中、軍備増強を図る政権と足並みをそろえ、無批判に伝える演出は危うくないか。(石原真樹、奥野斐、安藤恭子)

◆ミサイル艇に乗り込み、速射砲の作動に「すげえ!」

 9月29日放映の日本テレビ系「沸騰ワード10」。迷彩服姿のタレント、カズレーザーさんが「海上自衛隊舞鶴基地に潜入!」の触れ込みで登場し、海自最速というミサイル艇「うみたか」に乗り込んだ。「日本海側では撃てない」という射程100キロ以上の国産ミサイル「SSM-1B」の説明を受け、速射砲の作動に「すげえ!」と喜んだ。
 テレビ初公開の「対水上打撃戦訓練」も隊員らと体験。P3C哨戒機と連携して不審船を敵と判断し「水上戦闘」のかけ声で船を加速。ミサイルを撃つ実画像を間に交え「目標撃沈」と伝える訓練を紹介した。

◆子どもたちも「すごい」「かっこいい」になるかも

 「人を殺すことにつながる戦闘機や艦船を説明なく見せられ、子どもたちは『すごい』『かっこいい』となるのでしょうか」。小学生と保育園の子ども2人がいる演劇家の鯨エマさん(50)=東京都奥多摩町=は、こうした「自衛隊バラエティー」番組を目にしてがくぜんとした。

都心上空を飛行する航空自衛隊の「ブルーインパルス」=2021年7月撮影

 自衛隊の情報は開示すべきだと思うが、感謝を口にするスタジオのタレントの表情、大げさな字幕、ナレーションの抑揚といった演出が全て単一的に見えるという。「自由なはずの私たちの思考が、番組がつくる同じレールに乗せられていく怖さがある」と受け止める。
 防衛省によると、自衛隊が出演したバラエティーやワイドショー番組(報道除く)の数は、2021年度に36件、22年度14件。23年度は10月下旬までに16件と前年度を上回るペースだ。主な放映局は日テレ、フジテレビ、テレビ東京。同省は出演理由を「防衛省・自衛隊の活動に対する理解獲得のため」と説明する。

◆「報酬のやりとりはない」というけど利益供与では?

 出演は「全て制作側からの依頼に協力している」とし、報酬のやりとりはないという。ただ、自衛隊のX(旧ツイッター)でも番組PRしているが、これは特定のテレビ局への利益供与にあたらないのか。
 同省は「撮影協力した番組をSNS(交流サイト)でPRすることは、活動に対する理解獲得のために必要。特定のテレビ局の依頼にのみ協力しているわけではない」と回答した。番組の数が多い日テレにも、自衛隊を取り上げる理由を聞いたが、「取材・制作過程の詳細は答えていない。報道機関として伝えるべき事は適切に伝えています」とした。

バラエティー番組を紹介する海上自衛隊のX(旧ツイッター)画面

 ある防衛省職員は「テレビ(出演)は影響が大きい。PRしたい自衛隊と、視聴率が取れる制作サイドは、ウィンウィンなのでは」と明かす。
 編集者の早川タダノリさんは、近年目立つ「自衛隊バラエティー」が気になり、今年上半期の番組を自宅の録画機でチェックした。

◆「装備・訓練」「自衛隊メシ」「体験入隊」

 「元自衛官芸人」のやす子さんが出ただけの番組などを除き、エンタメ要素の強い番組を確認。その結果、(1)装備・訓練リポート(2)隊員たちの食事を映す「自衛隊メシ」(3)体験入隊ドキュメント―の主に三つの内容に大別できたという。
 2021年、予算の大幅増額を目指し、防衛省がユーチューバーらに「厳しい安全保障環境」を説明する計画が報じられた。当時の岸信夫防衛相は記者会見で「インフルエンサーと呼ばれる方々に、まず理解をしていただけるような説明を行うことは重要だ」と述べた。
 21年、岸氏はカズレーザーさんに番組内で感謝状も贈呈している。早川さんは「カズレーザーさんのようなインフルエンサー育成は意識されている」とみる。
 中国に対抗する陸自部隊の「南西シフト」の最前線にある沖縄・石垣駐屯地も5月に特集された。「バラエティーでの広報が、安全保障の一環として組み込まれているのに、メディア側も協力して異論無い。『兵隊さんよありがとう』の軍歌は、新聞社が募った。戦時中の軍事思想の涵養(かんよう)と同じ」。早川さんは危ぶむ。
 自衛隊は発足当初から、憲法との整合性を問われてきた。元NHKディレクターで「自衛隊協力映画」の著書がある須藤遙子・摂南大教授によると、自衛隊広報の転機は1995年。阪神大震災やオウム真理教の事件で出動する自衛隊がニュースで頻繁に登場し、その後自衛隊を取り上げる映画作品も増えていった。

◆好感度は高くても定員割れが常態化

 テレビを含む「部外製作映画」(報道を除く)には協力を行う際の基準を示した60年の防衛庁(当時)の通知がある。通知によると「広報上直接効果がある」などと認められ、かつ「防衛思想の普及高揚となるもの」などを基準に判断する。「対価は要しない」とも定める。
 近年の内閣府の世論調査で自衛隊の好感度は9割前後を保つが、定員割れは常態化している。須藤さんは自衛隊広報について「『信頼できる』というイメージを定着させてきたが、肝心の自衛官の応募は増えていない。視聴者も実はしたたかでエンタメとして楽しんでいるのが現状」とみる。

◆「バラエティーをやるなら報道としても指摘を」

 立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は、元自衛官五ノ井里奈さんへの性暴力事件や自衛隊の南西シフトも踏まえ、「ガザ情勢を見れば、いま血を流している子どもたちがいる。自衛隊というよりは『軍隊』へのネガティブな庶民感情が、じわじわと広がっているのではないか」と指摘する。
 「自衛隊は役に立っています、とPRする一方、防衛力の実態を伝える報道やドキュメンタリーはむしろ減っていてアンバランス。バラエティーをやるなら報道としても指摘しないと、結果として戦前回帰になりかねない」と警告する。
 NHKと民放連でつくる「放送倫理・番組向上機構(BPO)」青少年委員会で2009〜18年に委員長を務めた汐見稔幸・東京大名誉教授(保育学)は、子どもが見られる時間帯に「打撃訓練」などと仰々しく伝える番組に複雑な思いを持つ。

海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」=資料写真

 「子どもたちを絶対に戦場に向かわせません、という決意は持ちましょうよ。今のような戦争の時期だからこそ平和を願う人間を育てていきたいし、人を殺さないと殺されるという教育をしたくない。これは全体で合意できるものだ」
 テレビの影響は大きい。「自衛隊が災害時に果たす役割と、米軍と協力した戦争の訓練とは区別して伝えるべきだ。安易に賛美する風潮をつくることは、憲法に照らしてもマスコミの仕事ではない」と断じる。
 自衛隊を取り上げるバラエティーや情報番組、報道の境目もあいまいだ。汐見さんは視聴者にこうアドバイスする。「テレビで流れたら、保護者は子どもたちに『戦争って嫌だね』とさりげなく言ってほしい。『戦争はやめてほしいね』と、何度でもうるさく言ってほしいですね」

◆デスクメモ

 17日の日テレ「沸騰ワード10」でもカズレーザーさんが出演し「伝説の戦車の中に潜入」とやっていた。御用番組・芸人の様相を呈している。戦時中、日本のメディアは軍のプロパガンダに加担した。その反省も、他国で今、血を流す市民への想像力も欠けている。この状況、危うい。(北)

おすすめ情報

こちら特報部の新着

記事一覧