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第8波はピークを打ったが、凪は続かない。救急逼迫はしばらく続き、休む間もなく第9波へ

新型コロナの第8波はピークをうったようですが、救急医療の逼迫は続いています。感染力が高まった「XBB.1.5」にほどなく置き換わる可能性が高いと見られる中、理論疫学者の西浦博さんは「休む間もなく次の流行が来る」と注意を呼びかけます。

新型コロナウイルス第8波はピークをうちそうだが、救急医療の逼迫が続く中、政府は感染症法上の位置付けを2類相当から5類に変えたり、屋内のマスク着用原則を廃止したりなど対策緩和を推し進めようとしている。

このまま対策を手放して、コロナの流行は、国民の命は、医療は大丈夫なのだろうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに現状をどう見ているのか聞いた。

※インタビューは1月18日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

第8波は東日本中心にピークアウト

——現在の流行状況をどう見ていますか?ピークアウトし始めていると考えていいのでしょうか?

そうですね。全国的にピークアウトしている状況なのは良いことだと思っています。

第8波の流行は長引くことはわかっていたのですが、ピークがここまで高くなるとは波が始まった時には想定できていませんでした。

8波の初めはオミクロンのBA.5系統中心に流行が起こっていて、11月の中頃までに一度、新規感染者数は下がっていました。

同じことが多くの県で起きていて、「ここでピークアウトか」と思っていたら、もう一度12月になってから上がりました。

再び上がったのは、主にBQ.1という今流行を起こしているオミクロンの亜系統への置き換わりによるのですが、置き換えのタイミングに合わせて年末年始は人と人との接触や移動が増える時期でした。良くない時期にもう一度増え始めたことを本当に心配していました。

でも、今は東日本を中心に新規感染者数の減少が明らかになっています。

上に出したのは「ナウキャスティング」という新しく方法論を修正したグラフです。

左上は北海道のデータで、茶色の棒グラフが報告日別の新規感染者数です。赤色は1週間前までのデータを利用して、今週を予測したデータです。それを確認した上で、今後2週間はどうなるかの予測を黄色の棒グラフで示しています。

これを見ると、第8波で最初に流行した北海道も東北の他の県も、少し時間はかかりながらも、新規報告患者数は確実に落ちてきています。

過去最悪の流行状況だった西日本でもピークアウトの兆し

その傾向が関東でも見られ始めたのは喜ばしいことです。

東京、神奈川など首都圏でも新規感染者数は落ち始めてきています。西日本もちょうどピークを超えたあたりかなと思います。

今回の流行では九州と中国、四国地方で目立って悪い状況が続きました。特にBQ.1に置き換わってからは、過去最大の感染者数を西日本の多くの県で経験しました。

そういうところでも安定的に下がっていそうな状況にやっとなってきています。

コロナ用の病床は既に限界を突破

——それでも救急を中心に医療逼迫は続いていますね。

新規感染者数には若い人も入っていて、新たな発病者数を指しています。

ところが、病床使用率は高齢者を中心に持病を持っている人が占める割合です。その人たちが一定期間入院して病床を占有するので、流行の後になればなるほど状況は厳しくなっていきます。

一人当たり10日間入院するとすれば、入院適応のある新規患者数の10倍の負荷が常にかかっていることと同じことになります。

病床使用率の方が流行の後半に響いてきて、ピークを超えてもそこから先にしんどい状況が続きます。

こちらのグラフは第7波と第8波のコロナ用の確保病床の使用率を示したものです。当初は「第7波より小さい流行になるのかな」と思っていたのですが、そうはなりませんでした。今、多くの県で第7波を超えた状態になっています。

都市部はコロナの受け入れ医療機関が地方よりも比較的多くあります。

これは直近1週間の人口あたりの陽性者が上位の県だけを抽出しているのですが、九州・中国地方がほとんどです。第7波を超えています。

50%を超えた状態ですが、そもそも地方自治体で設計している確保病床は絵に描いた餅のようなものです。実態としては残りの50%はほぼ使えないところもいっぱいあり、既に限界を超えていると考えられます。

救急の逼迫、今後数週間は持続する見込み

——もう新しい入院患者を受け入れられなくなっているのが、救急でどこも受け入れてもらえないという状況を呼んでいるわけですね。

第7波でも、救急車が呼べなくなる時期を経験しました。それを第8波では多くの県で経験していることになります。

救急車を呼んでもすぐに来ないし、心血管や脳血管などで時間を急ぐ病気について、すぐに治療ができなくて救うことができない。いわゆる「超過死亡(※)」が増える状況で、循環器疾患や老衰による死亡が多く起こる傾向にあります。

※平年に比べて感染症の流行や災害など特定の要因で増えた死亡

——いつ頃までこの状況は続きそうですか?

救急が逼迫している状態は、新規の感染者数がどれだけ早く減るかにも影響されます。少なくとも当面、数週間はこの状況が持続するものと思われます。

——救急隊員や患者を受け入れる救命救急の医療者たちはずっと高い負荷がかかり続けていて、心身共に疲弊していますね。

救急の勤務環境が過酷だという話は報道でも見られますが、社会の中で緩和ムードが進む中で、救急の疲弊ぶりに目が届かない状況にはならないでほしいと思います。常時、救急の現状は国民も認識しておくべきものです。

緩和の中でも、他の国では感染を制御しながら進んでいるところもあります。例えば、シンガポールなどでは、今も人と人との接触を一部抑える行動制限が行われています。

老衰や循環器疾患による超過死亡が増える状態が長く続くのは異常だと、皆で認識する必要があると思います。

伝播力が高く、免疫をすり抜けるXBB.1.5はまもなく日本でも流行する

——気になるのは、現在流行っている株よりも伝播が起こりやすい「XBB.1.5」への置き換わりです。

XBBはそもそもオミクロンBA.2系統の組み換え体と呼ばれているものです。アメリカでは一気に増えていて、最も割合の多い系統になりました。

この資料で言うと、黄色の点線がアメリカのXBB.1.5の動向です。

BA.5と比較すると1.47倍ぐらいの相対的な再生産数(※)です。

※1人の感染者あたりの平均的な二次感染者数

アメリカの人が日本人と比べてどれだけ他の株に免疫を持っているかでも左右される数字ですが、今までわかっているエビデンスでも、他の亜系統よりも伝播の起こりやすさが総合的に上回っている状況です。

実験では、これまでの予防接種や自然感染による発病阻止の免疫をこのウイルスはすり抜けることもわかっています。

今、アメリカと日本の間には移動制限はないですから、必ずXBB.1.5は日本でも流行を起こすものと想定しても差し支えないと思います。もう東京で検出されています。次の流行の新たなストーリーを引き起こす系統であるのは間違いなさそうです。

——XBB.1.5はすぐに日本でも拡大しそうなのですか?

どれぐらいの規模で感染者が日本を訪れて、どれぐらいの接触で感染拡大を許すかにかかっています。けれども、そんな遠くない未来に流行が起こる可能性は高いと考えられます。

——XBB.1.5のためにアメリカに対する水際対策はやる意味はないですか?

これまでの水際対策を考えると、アルファ株、デルタ株の流行が起きた時に、相当制限をしました。アルファ株の時は英国からの新規入国を停止しましたし、デルタ株の時はインドなどからの新規入国を停止しました。

それによって感染拡大を少し遅らせることはできたものと分析していますが、結局、その間も日本人や再入国可能な方は行き来できたりしたので最終的に変異株での流行は起こりました。

強固な対策をしても、流行は起こります。今の他の国との往来を見ると、アメリカだけ限定的に厳しい対策をするのは非現実的で、厳格な移動制限の判断は難しい状況にあります。

8波収束から休む間もなく第9波へ

つまり、休む暇もないぐらいで次の流行が起きるだろうということは、ある程度みんなで共通認識にしておいた方がいい。

残酷なことを言うようですが、第7波の流行が始まってから、都市をもつ多くの自治体でコロナ病床を使用している割合が20%を切ったことはないと思います。下がることなく、高いレベルの出発点から、また上がっていくのです。

——一息つく間もなく、次の第9波が来てしまうということですか...。

そうです。皆さん、いわゆる凪に近い状態になると楽になると思います。いま外来診療は少しだけ凪に近い状態に近づこうとしていますが、そんなに凪は続かない可能性が高いと思われます。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。