ベルゼブモンが回覧板を渡しに行くだけの話です(比喩)
◇◇
ベルゼブモンは舌打ちをしながら、目の前の引き戸の隙間に爪先の刃を引っ掛け、やや乱暴にその戸を開けた。
会いたくもない相手に会いに行くのは心底面倒だ。
その相手が自分と相性の悪い相手なら尚更だ。
このダークエリアに居を構える他の魔王は各自「固有結界」とも言える自分だけのサーバーを築いている。
自分に過ごしやすい、いわゆる理想の住居といったところだろう。
ベルゼブモンの構えは他に比べたら質素だ。寝る場所さえあれば良いと思っている。
しかし、今から向かう場所は、それの真反対。
敷居をまたぐと、つやつやと黒く照りのある木の床。牡丹や林檎の木を金箔や螺鈿で描いた豪勢な衝立。
その向こうに、華やかに花々が描かれた襖が見える。
それをつま先で開けば、長い襖の回廊が現れた。
身体に雪崩込む空気は鼻につく。甘ったるい伽羅、麝香、花、果実の混ざる匂い。
林檎、桜、芍薬、彼岸花、椿等の季節の花々や美しい女が描かれた豪勢な襖。
襖の向こうから聞こえる、女達の笑い声、甘ったるい声、囁き声。
吊燈籠で照らされたほの暗く、先の見えない直線。
色慾渦巻く、夜の回廊。
「……クセェ」
七大魔王、色欲の冠を頂くリリスモンの廓だ。
そこはかとなく粘度……湿気を感じる甘くて重たい空気。鼻を二の腕に押し付けながらベルゼブモンは回廊を進んでいく。
ただただ、「七大魔王の会合に出ろ」と。メールなりなんなりで済むことを言う為だけにベルゼブモンは回廊を歩く。
返事をしないリリスモンが悪いのに、なんで俺がこんな。
不機嫌も不機嫌だった。
着物をはだけさせた裸の女達が悪魔と姦淫に興じる宴の様子。
聖者の生首を皿に乗せ、恍惚の笑みを浮かべる踊り子。
趣味の悪い襖絵が、ベルゼブモンを痛いくらいに見つめている。
もう既に早く帰りたい。
苛立ちを覚えつつ襖に銃弾を撃ち込むと、ぎゃあ、と濁った悲鳴と一緒に、襖絵の女から血が流れた。
牡丹色の照明も趣味が悪い。ラブホかよ。
仮に侵入者がいたならば、気でも逸れるだろうが。
しばらく歩いてようやく見えてきた木製のエレベーターに乗り込み、ベルゼブモンはレバーを「地獄」へ下ろした。
ここに来たなら、誰であろうと地獄-リリス-に堕ちる。そういうように。
くだらない、と一蹴した。
堕ちていくエレベーターは、伸びる廓のど真ん中を貫いて堕ちていく。
女性型デジモンの姦しい話し声や、媚びるような笑い声。
うんざりだ。
早く、帰りたい。
エレベーターの壁によりかかり、ベルゼブモンは帰ったあとのスケジュールを立てる。
とにかく、シャワーを浴びて甘ったるい臭いを消したい。
女達の視線から目をそらさないように睨み付けながら、衆合へと降りていった。
よりによってベルゼブモンがこのポジに! 夏P(ナッピー)です。
これぞリレー小説向きと言える題材。あまりにも脳内に遊郭編というサブタイトルが浮かぶ程度には俺達は二人で一つだからなぁが確定している舞台。こりゃベルゼブモンもタダでは済まず柱もとい魔王を引退するのも必然……
とまあそれはともかく、デジタルモンスターにも関わらずなかなかの甘ったるい雰囲気。女性型デジモン、それも魔王の下へいそうな奴というとどんな奴らがいたかしら。ところでラブホ知ってるんだベルゼブモン。
続き考案してきます。