アラブとイスラム諸国の首脳ら、西側を非難 ガザの惨状めぐり

フランク・ガードナー安全保障担当編集委員(サウジアラビア)

「アラブ連盟」と「イスラム協力機構」の臨時の合同首脳会議

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画像説明, アラブとイスラム諸国の首脳らは、イスラエルによる「報復攻撃」は「破滅的な影響」を及ぼすと警告した(11日)

偽善、二重規範、中東への無理解――。これらは、サウジアラビアの首都リヤドに先週末に集まったアラブ地域とイスラム圏の計57カ国の首脳らが、西側(主にアメリカ)に浴びせた非難だ。

会合を取材していた私は、各国の外相らからこう言われた。西側はウクライナで民間人を殺しているとしてロシアを非難しながら、「ガザで同じことをイスラエルがするのを容認している」のはどういうわけなのかと。

リヤドのリッツ・カールトン・ホテルの豪華な会場は、巨大な花束やきらびやかなシャンデリアが配され、荒廃したパレスチナ自治区ガザ地区の光景とは別世界だった。ここで11日、「アラブ連盟」と「イスラム協力機構」の臨時の合同首脳会議が開かれ、君主、大統領、首相らが集った。

ガザ地区における戦争と、人命および物の破壊については、イスラエルとその支持者に一方的に責任があるとした。イスラム組織ハマスが10月7日にイスラエル南部を急襲し、1200人を殺害し、約240人を人質に取り、大規模な報復攻撃を招いたことについては、誰もハマスを批判しなかった。アラブ連盟の事務局長は、イスラエルが犯罪行為を犯したと述べた。

最終的な共同声明は、「イスラエルによるガザ地区への報復攻撃は戦争犯罪であり、悲惨な影響を生むことについて警告する」とした。また、「イスラエルが侵略をやめず、(国連)安全保障理事会が国際法の執行によって侵略を終わらすことができないことで、戦争が拡大する現実的な危険について警告する」とした。

今回の会場で私が話をした人の中で、このサミットでイスラエルが大きな注目を集めると予想した人はほとんどいなかった。このサミットと、その団結を示すメッセージが、イスラエル最大の支援者のアメリカに向けられているのは明らかだった。参加各国の指導者らは、ジョー・バイデン米政権と西側がイスラエルに十分な圧力をかけ、戦争を完全に止めることを望んでいた。

しかし、どうやってそれを実現するのかでは、参加国は考えが一致しなかった。サミットでは、奇妙とも思える国同士の接近も見られた。ガザでの出来事が手に負えなくなるほど広がるのを、各国がいかに心配しているかの表れだった。

サミット会場で並んで歩くイランのライシ大統領(前左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(前右、11日)

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画像説明, サミット会場で並んで歩くイランのライシ大統領(前左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(前右、11日)

イスラエルの主要敵国イランも参加した。黒いローブを身にまとったエブラヒム・ライシ大統領は、襟なしシャツとダークスーツ姿の険しい顔をした警備スタッフに挟まれながら、カーペット敷きの会場を大股で歩いた。これ自体、驚くべき光景だった。

サウジアラビアとイランは、今年3月の関係改善まで、毒のある非難をぶつけ合う宿敵同士だった。今なお、対立する課題は残る。イランは、ガザのハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派など、多くの人々がイランの「代理民兵組織」と呼ぶ集団を支援している。

サウジアラビアは、こうした動きを危険な不安定要素ととらえている。エジプトやヨルダンなどアラブの保守的な国々も同様だ。

ライシ大統領はリヤドに向けてテヘラン空港を出発する際、今こそガザをめぐって、言葉ではなく行動を起こす時だと述べた。

しかし、アメリカやイギリスに対する具体的で懲罰的な行動を期待した人は、失望することになった。3年前の「アブラハム合意」のもとでイスラエルと外交、貿易、安全保障上の関係を正常化させたアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンは、そうした関係を断つよう求める声に抵抗した。

シリアのバシャール・アル・アサド大統領も今回のサミットに参加した。つい最近までアサド氏は、シリア内戦での抑圧的な行動が原因で、アラブ世界ののけ者だった。サミットでは、具体的な措置がなければ成果はほとんど生まれないと主張。原油の禁輸や、アラブ諸国からの米軍基地の排除を訴えたが、静かに退けられた。

10月7日のハマスの襲撃と、それに続く戦争が、中東のパラダイム全体を変えたことは間違いない。

イスラエル南部であの凶行があった朝まで、地域政治の地殻変動は、イランおよびイランと同盟関係にある武装勢力の利益から遠ざかる方向で進んでいた。アラブ6カ国はすでにイスラエルとの関係を正常化させていた。サウジアラビアはそれに続くはずだった。イスラエルの観光相は、ハマスの襲撃のつい数日前にリヤドを訪れていた。ドバイはイスラエル人観光客を大量に誘致してきた。アラブの国々は、ハイテク、監視、バイオテクノロジーなどの分野で、イスラエルの専門知識に強い期待を寄せてきた。

ハマスの亡命政治指導者を受け入れているカタールを除き、湾岸アラブ諸国の支配者たちは、パレスチナ指導部の腐敗、非効率、内紛(と彼らが考えているもの)に嫌気がさしていた。75年たっても国家をもてないパレスチナ人の苦悩には同情を示す一方で、イスラエルは無視できない重要な国であり、関係を正常化する時期に来ていると大方は考えていた。将来のパレスチナ国家の問題は、演説ではまだ取り上げられるが、現実にはほとんど関心をもたれていなかった。

今回の首脳会議に参加したシリアのアサド大統領(11日)

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画像説明, シリアのアサド大統領も今回の首脳会議に参加した(11日)

アラブとイスラエルの関係は、まだ切れてはいないものの、確実にほころびを見せている。

「若者の過激化を本当に心配している」と、あるアラブ国家の外相は私に言った。「若者らはガザで起きていることをテレビで見て、怒りを募らせている」。

参加各国の代表団からは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権の行動が自衛の範囲をはるかに超えていて、今や周辺地域を危険な道へと引きずり込もうとしている、との不満をたびたび耳にした。過激な物言いがオンラインで支持を集めていることへの懸念の声も上がっている。

アラブやイスラムの指導者たちは、国連安保理がガザでのイスラエルの軍事行動をまったく抑制できていないことに不満を感じている。アメリカがに停戦に反対していることは、中東においてアメリカの同盟国とされている国々を深く困惑させている。

アメリカと石油資源の豊富な湾岸アラブ諸国との戦略的同盟関係は、1945年にフランクリン・ルーズヴェルト米大統領と、近代サウジアラビアを築いたアブドゥルアジズ国王が紅海の米軍艦上で行った戦時中の会談にさかのぼる。アメリカはいまも、サウジおよぶ湾岸アラブ地域の防衛と安全保障上のニーズの大部分に応えている。

しかし、水面下では状況が変わりつつある。アメリカのバラク・オバマ政権が「アジアへの軸足移動」を打ち出して以来、アメリカは湾岸地域への関心を失いつつあり、忠実なパートナーとして頼ることはできないのではないかとの懸念が、この地域で広がっている。同時に、ロシアと中国の影響力が増している。中国は最近、イランとサウジアラビアの関係改善を仲介した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、シリアのアサド大統領を揺るがず支援し続け、アラブの指導者たちに感銘を与えた。エジプト・カイロのタハリール広場に2011年に群衆が押し寄せたとき、アメリカが素早くホスニ・ムバラク大統領を見捨てたのとは対照的だととらえている。

だからといって、西側が中東で友好国を失ったわけではない。アラブの盟友たちは明らかに、アメリカに対して怒りの言葉を投げかける以上のことはしたくないと思っている。だが、それらの国々は、自分たちの意見を聞いてほしいと思っているし、中東地域や自国での出来事が対処し切れないほど悪化する恐れが生じる前に、ガザでの暴力を早くやめてほしいと思っている。